UNIX系のシステムで提供されるchroot
(change root)は、プロセスとその子プロセスのルートディレクトリ(/
)を変更する仕組みです。この機能を使うと、指定したディレクトリ以下のファイルシステムだけがそのプロセスから見えるようになります。以下はその仕組みについての詳細な説明です。
chroot
の仕組み
- ルートディレクトリの変更
chroot
は、指定したディレクトリをプロセスの新しいルートディレクトリ(/
)として再定義します。これにより、プロセスがアクセスするファイルパスは、新しいルートディレクトリを基準に解決されます。
例:
– もとのルートディレクトリ:/
– 新しいルートディレクトリ:/var/chroot_env
–chroot
後にプロセスが/etc/passwd
を参照すると、実際には/var/chroot_env/etc/passwd
を参照する。 - システムコールの影響
open
やstat
などのシステムコールは、カーネルが現在のプロセスに設定されたルートディレクトリを基準にしてファイルパスを解決します。これにより、プロセスは新しいルートディレクトリの外にあるファイルシステムに直接アクセスできなくなります。
- プロセスごとの分離
chroot
はプロセスごとに適用されるため、他のプロセスには影響を与えません。chroot
環境内で動作するプロセスの子プロセスも同じ環境を継承します。
主な用途
- セキュリティの強化(サンドボックス)
外部からのアクセスを受けるサービス(例: FTPサーバーやWebサーバー)をchroot
で隔離することで、万が一そのサービスが侵害された場合でも、システム全体への被害を限定できます。 - ビルド環境の構築
特定のディストリビューションやソフトウェアのビルド環境を構築するためにchroot
を利用します。これにより、既存のシステムに影響を与えずに異なる環境を簡単に再現可能です。 - テスト環境
新しい設定やアプリケーションを試す際に、chroot
を使ってシステム全体に影響を及ぼさない独立した環境を提供します。
制限と注意点
- ルートユーザーの制約回避
chroot
はルートユーザーによって実行される必要があります。通常のユーザーは直接実行できません。 - 完全な隔離ではない
chroot
は完全なセキュリティ対策ではありません。たとえば、chroot
内で特権を持つプロセスが外部に影響を及ぼすことがあります。したがって、完全な隔離が必要な場合は、chroot
の代わりにコンテナ(Dockerなど)や仮想マシンを使うべきです。 - バイナリとライブラリの配置
chroot
環境では、実行するアプリケーションや依存するライブラリをすべて新しいルートディレクトリの中に配置する必要があります。たとえば、ls
コマンドを動作させるには、ls
バイナリだけでなく、それが依存するライブラリも配置する必要があります。
実際の使用例
# 新しい環境を作成
mkdir -p /var/chroot_env/{bin,lib}
# 必要なバイナリとライブラリをコピー
cp /bin/bash /var/chroot_env/bin/
cp -v /lib/x86_64-linux-gnu/libtinfo.so.6 /var/chroot_env/lib/
# chrootを実行
sudo chroot /var/chroot_env /bin/bash
# 新しい環境内で操作
ls /
exit
これが、chroot
の仕組みとその活用方法です。